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大阪地方裁判所 平成5年(レ)56号 判決

控訴人

トモエタクシー労働組合

右代表者執行委員長

辻勇吉

トモエ自動車労働組合

右代表者執行委員長

降幡直秀

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

片桐浩二

被控訴人

蝦名勝吉

森山哲夫

杉本隆志

田村勝

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

梅田章二

芝原明夫

金高好伸

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人トモエタクシー労働組合(以下「控訴人タクシー労組」という。)は、トモエタクシー株式会社(以下「トモエタクシー」という。)の従業員で構成する労働組合であり、約三〇〇人の組織人員を有する。控訴人トモエ自動車労働組合(以下「控訴人自動車労組」という。)は、トモエ自動車株式会社(以下「トモエ自動車」という。)の従業員で構成する労働組合であり、約九〇人の組織人員を有する。

被控訴人蝦名及び同杉本は、控訴人タクシー労組の、被控訴人森山及び同田村は、控訴人自動車労組のそれぞれ組合員であった。

2(一)  被控訴人蝦名は、昭和六〇年四月一日、トモエタクシーから諭旨解雇処分を受けたことにより従業員としての地位を喪失し、もって控訴人タクシー労組の組合員資格を喪失した。

(二)  仮に、右主張が認められないとしても、控訴人タクシー労組は、被控訴人蝦名の右解雇に賛成し、以後被控訴人蝦名を組合員として扱わず、同人もこれを容認した。右のような同控訴人の措置は、被控訴人蝦名に対し、事実上の除名処分をしたものであり、また、右同日ころ、控訴人タクシー労組と被控訴人蝦名との間において、被控訴人蝦名が控訴人タクシー労組を脱退することにつき、黙示の合意が成立したものである。

3  被控訴人森山は、控訴人自動車労組に対し、同六三年一一月二〇日、脱退通知書を持参して脱退の意思を表示したが、控訴人自動車労組が同人の脱退を認めないため、同月二九日、内容証明郵便により脱退の意思を表示し、右意思表示は同月三〇日に控訴人自動車労組に到達した。

4  被控訴人田村は、控訴人自動車労組に対し、平成元年一月一一日、脱退通知書を持参して脱退の意思を表示したが、控訴人自動車労組が同人の脱退を認めないため、同月一二日、内容証明郵便により脱退の意思を表示し、右意思表示は同月一三日に控訴人自動車労組に到達した。

5  被控訴人杉本は、控訴人タクシー労組に対し、平成二年五月三〇日、脱退通知書を持参して脱退の意思を表示したが、控訴人タクシー労組が同人の脱退を認めないため、同日、内容証明郵便により脱退の意思を表示し、右意思表示は同月三一日に控訴人タクシー労組に到達した。

6  ところが、トモエ自動車及びトモエタクシーは、被控訴人らの賃金から引き続き控訴人らにかかる被控訴人らの組合費を次のとおりチェックオフし続け、控訴人らは、これを各会社から受領した。

(一) 被控訴人蝦名につき控訴人タクシー労組が受領した金額

平成元年一二月分から同三年三月分まで月一一〇〇円宛一六か月分合計一万七六〇〇円

(二) 被控訴人杉本につき控訴人タクシー労組が受領した金額

同二年六月分から八月分まで月一一〇〇円宛三か月分合計三三〇〇円

(三) 被控訴人森山につき控訴人自動車労組が受領した金額

昭和六三年一二月分から平成元年五月分まで月一一〇〇円宛六か月分合計六六〇〇円

(四) 被控訴人田村につき控訴人自動車労組が受領した金額

平成元年二月分から同三年三月分まで月一一〇〇円宛二四か月分合計二万六四〇〇円

7  よって、被控訴人蝦名及び同杉本は、控訴人タクシー労組に対し、被控訴人森山及び同田村は、控訴人自動車労組に対し、それぞれ、不当利得返還請求権に基づき、右各金員の支払とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年一一月一四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2(一)のうち、被控訴人蝦名が同被控訴人主張の日に諭旨解雇処分を受けたことは認め、その余は争う。

被控訴人蝦名は、トモエタクシーに対し、諭旨解雇処分を無効として従業員地位確認等請求の訴えを提起し、平成元年九月二二日に同被控訴人の従業員地位確認判決が確定した。よって、同被控訴人の従業員たる地位は継続しているので、同被控訴人の控訴人タクシー労組組合員の資格喪失事由は当初から存在しないこととなった。

(二)  同2(二)は否認する。

トモエタクシーの懲罰委員会規定三条によれば、「本会の委員は従業員中より五名会社側より五名を選任し社長これを統轄する」と規定されており、控訴人タクシー労組は懲罰委員会の委員とはなっていない。したがって、控訴人タクシー労組の懲罰委員会における言動というものはあり得ず、右懲罰委員会において控訴人タクシー労組が被控訴人蝦名の解雇に賛成することもなかった。

3  同3のうち、被控訴人森山が控訴人自動車労組に対し、昭和六三年一一月二九日付けで脱退届を発送したことは認める。

4  同4のうち、被控訴人田村が控訴人自動車労組に対し、平成元年一月一二日付けで脱退届を発送したことは認める。

5  同5のうち、被控訴人杉本が控訴人タクシー労組に対し、平成二年五月三〇日付けで脱退届を発送したことは認める。

6  同6は認める。

三  抗弁

1(一)  被控訴人蝦名は、平成三年三月一六日及び一七日の午前一一時ころから開催された控訴人タクシー労組の職場集会(以下「本件各職場集会」という。)に、控訴人タクシー労組の組合員でなければ参加し得ないことを承知の上で、控訴人タクシー労組の組合員として参加し、「俺は組合員である。」等と発言し、討議に参加した。

(二)  被控訴人森山、被控訴人杉本及び被控訴人田村は、被控訴人蝦名と意を通じ、被控訴人蝦名を右被控訴人らの代表として右言動をなさしめたものである。

(三)  したがって、被控訴人らの控訴人ら組合からの脱退行為及び本件組合費返還請求は、控訴人ら組合の団結を乱す目的ないし態様によってなされたものであって権利の濫用に当たり、かつ、禁反言の原則に反するものであるから無効である。

2  控訴人らは、それぞれ、トモエタクシー及びトモエ自動車の従業員で構成されている労働組合であるところ、右各会社の従業員には、賞与及び退職金の支給のあるA勤務従業員と一部賞与の支給のみがあるB勤務従業員との二種類がある。

控訴人らに所属しているのは右A勤務従業員であり、A勤務従業員は、全員が組合に加入している。被控訴人らもA勤務従業員である。

したがって、控訴人らは、実質的にユニオンショップであるから、被控訴人らは、現にA勤務従業員である以上、控訴人らに加入しているものである。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)は否認する。

本件各職場集会は、組合規約上の正規の機関でもなく、タクシー料金改定の賃上げに対する影響を、控訴人タクシー労組住道支部の役員が組合員に説明するためのものにすぎなかったから、たまたまその場に居合わせた非組合員や他の組合員も参加し得るものである。

そこで、被控訴人蝦名は、右住道営業所の乗務員として発言したところ、執行部から組合員でない者の発言は認められない旨の制限を受けたため、対抗上、「組合費を差し引かれている分は発言させてもらう。」と反論したに過ぎない。したがって、被控訴人蝦名の右発言は、控訴人タクシー労組の組合員であることを自認したものではない。

(二)  同1(二)は否認する。

(三)  同1(三)は争う。

2  同2は否認する。

トモエ自動車及びトモエタクシーには、ユニオンショップ協定を締結している労組は存在しない。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  請求原因1、6の事実は、当事者間に争いがない。

二  被控訴人らは、控訴人ら組合を脱退等したことにより組合員資格を喪失した旨主張するので、以下順次検討する。

1  被控訴人蝦名について(請求原因2)

被控訴人蝦名が昭和六〇年四月一日にトモエタクシーから諭旨解雇されたこと、同被控訴人がトモエタクシーに対し、右諭旨解雇を無効として従業員の地位確認請求の訴えを提起し、平成元年九月二二日、同被控訴人の従業員たる地位を確認する旨の判決が確定したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に成立に争いのない(証拠略)、控訴人タクシー労組代表者辻勇吉、被控訴人蝦名(原・当審)各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  控訴人タクシー労組の組合規約(〈証拠略〉)によると、同控訴人組合の組合員は、トモエタクシーの従業員で組織する旨定められている。

(二)  トモエタクシー及びトモエ自動車は、トモエ交通株式会社とともにトモエ資本系列のトモエタクシーグループを形成しているところ、同グループにおいては、従業員の懲戒等を行うに際しては、労働者側委員五名及び使用者側委員五名からなる懲罰委員会を開催し、そこでの意見に基づき処分を行う扱いとなっていた。被控訴人蝦名の処分に際し、昭和六〇年二月二八日、トモエタクシー本社において、使用者側委員六名及び労働者側委員として労働組合の代表者である控訴人タクシー労組橘高執行委員長ら六名が出席して懲罰委員会が開催された。使用者側委員の意見は、全員懲戒解雇又は諭旨解雇が相当であるというものであり、労働者側委員の意見は、減給、乗務停止が相当であるという意見と諭旨解雇が相当であるという意見とに分かれた。トモエタクシーは、同年四月一日、右懲罰委員会の意見に基づき、被控訴人蝦名を諭旨解雇にした。

控訴人タクシー労組執行部においても右解雇をやむなしとし、そのころ、同控訴人組合の橘高執行委員長は、被控訴人蝦名に対し、同被控訴人には控訴人タクシー労組の組合員としての資格はない旨告げた。右解雇以降、控訴人タクシー労組は、被控訴人蝦名を組合員として扱わず、給料からの組合費のチェックオフを停止した。なお、控訴人タクシー労組においては、組合員が解雇された場合、解雇と同時に組合員資格を喪失するとの扱いをしている。

(三)  被控訴人蝦名は、右諭旨解雇処分を不当なものとして争う意思を有していたが、控訴人タクシー労組は、これを支援する姿勢を示さず、また、同被控訴人を組合員として扱わなくなったが、これに対し、同被控訴人は、積極的に異議を申し立てることもせず、容認した。

そして、被控訴人蝦名は、右諭旨解雇処分について知人を通じて全国自動車交通労働組合総連合会(以下「自交総連」という。)に相談に行き、地位保全の仮処分申請の申立て等について指導を受け、さらに同六一年九月二〇日、自交総連トモエ分会を結成してこれに加盟し、以来、同組合の執行委員長として活動している。

(四)  被控訴人蝦名は、右諭旨解雇処分を不服として、右諭旨解雇処分の無効を原因とする従業員地位確認等請求訴訟を提起し、右訴訟は、平成元年九月二二日、右従業員の地位を確認する旨の判決が確定した。しかし、被控訴人蝦名は、右判決確定後においても、控訴人タクシー労組へ復帰する旨の意思表示をしたことはなく、他方、控訴人タクシー労組が被控訴人蝦名に対し、同控訴人労組組合員の資格が回復した旨を伝えたことはないし、同被控訴人を組合員として扱ったこともない。

以上の事実を認めることができるところ、被控訴人蝦名は、昭和六〇年四月一日、トモエタクシーから諭旨解雇処分を受けたことにより従業員としての地位を失い、もって控訴人タクシー労組の組合員資格を喪失した旨主張する。右認定の事実によると、同控訴人の組合規約には、同控訴人の組合員はトモエタクシーの従業員で組織する旨の規定があるが、同被控訴人の受けた諭旨解雇処分に争いがある以上、同被控訴人が直ちにトモエタクシーの従業員としての地位を失い、もって同控訴人組合員資格を喪失したものと認めることはできない。

しかし、右認定の事実によると、被控訴人蝦名は、昭和六〇年四月一日にトモエタクシーから諭旨解雇されたが、これに対し、控訴人タクシー労組は、右解雇処分をやむなしとして受け入れるとともに、同被控訴人に対し、右解雇処分により同被控訴人が同控訴人の組合員たる資格を有していない旨告げるとともに、同被控訴人が右解雇処分を争うことについても何ら援助しないばかりか以後組合費のチェックオフの取り扱いも止めるなど組合員として扱わなかったこと、同被控訴人は、同控訴人の右のような扱いを受け入れて特段の異議も言わなかったこと、同被控訴人が右解雇処分の無効を原因として提起していた従業員の地位確認等請求訴訟により従業員の地位が確認された後も、同被控訴人は、同控訴人に復帰する旨の意思表示をしていないし、同控訴人も同被控訴人に対し、同控訴人の組合員資格が回復した旨を伝えたこともなく、従前同様組合員として扱っていないことが認められ、このような事実からすると、同被控訴人は、右解雇処分を受けた右同日ころ、同控訴人との間で同被控訴人が同控訴人組合を脱退する旨の黙示の合意をしたものと認めることができる。

2  被控訴人森山について(請求原因3)

被控訴人森山が控訴人自動車労組に対し、昭和六三年一一月二九日付けで脱退届を発送したことは当事者間に争いがないところ、右事実に成立に争いのない(証拠略)、原審における被控訴人蝦名本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人森山が控訴人自動車労組に対し、同月二〇日、脱退通知書を持参して脱退の意思を表示したが、控訴人自動車労組が同人の脱退を認めないため、同月二九日、内容証明郵便により脱退の意思を表示し、右意思表示は同月三〇日に控訴人自動車労組に到達したことを認めることができる。

右の事実によると、被控訴人森山は、昭和六三年一一月三〇日、控訴人自動車労組を脱退したものということができる。

3  被控訴人田村について(請求原因4)

被控訴人田村が控訴人自動車労組に対し、平成元年一月一二日付けで脱退届を発送したことは当事者間に争いがないところ、右の事実に成立に争いのない(証拠略)、原審における被控訴人蝦名本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人田村は、控訴人自動車労組に対し、平成元年一月一一日、脱退通知書を持参して脱退の意思を表示したが、控訴人自動車労組が同人の脱退を認めないため、同月一二日、内容証明郵便により脱退の意思を表示し、右意思表示は同月一三日に控訴人自動車労組に到達したことを認めることができる。

右の事実によると、被控訴人田村は、平成元年一月一三日、控訴人自動車労組を脱退したものということができる。

4  被控訴人杉本について(請求原因5)

被控訴人杉本が控訴人タクシー労組に対し、平成二年五月三〇日付けで脱退届を発送したことは当事者間に争いがないところ、右の事実に成立に争いのない(証拠略)、原審における被控訴人蝦名本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人杉本は、控訴人タクシー労組に対し、同年五月三〇日、脱退通知書を持参して脱退の意思を表示したが、控訴人タクシー労組が同人の脱退を認めないため、同日、内容証明郵便により脱退の意思を表示し、右意思表示は同月三一日に控訴人タクシー労組に到達したことを認めることができる。

右の事実によると、被控訴人杉本は、平成二年五月三一日、控訴人タクシー労組を脱退したものということができる。

三  すすんで、控訴人らの抗弁について検討する。

1  抗弁1について

成立に争いのない(証拠・人証略)、被控(ママ)訴人タクシー労組代表者辻(一部)、被控訴人蝦名(原・当審)各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

控訴人タクシー労組は、平成三年三月一六日午前一一時ころから、トモエタクシー住道事務所二階の従業員仮眠室兼会議室において、春闘妥結内容の説明集会を開催した。右職場集会は、非組合員も自由に参加しうるものであった。

被控訴人蝦名は、右職場集会に出席し、控訴人タクシー労組に対し、会社と組合が妥結した足切り額(これに満たない場合は昇給が見送られることになる、一か月の水揚げの目標額)が高すぎるなどの意見を述べ、支部長の説明では分からないことを理由に、控訴人タクシー労組組合本部委員長の出席を要求した。

そこで、翌一七日午前一一時ころから、右同所において、再度職場集会が開かれた。被控訴人蝦名は、足切り額が高すぎること、控訴人タクシー労組はいつも会社の言いなりであり納得できないことなどを述べ、控訴人タクシー労組の臨時総会の開催を要求した。控訴人タクシー労組委員長辻勇吉(以下「辻委員長」という。)が被控訴人蝦名に対し、臨時総会を開催する必要性がないことを説明するとともに、被控訴人蝦名が組合員として発言しているのかどうかを問いただすと、被控訴人蝦名は、「タクシー労組が勝手に自分の組合費を徴収しているので、自分も勝手に発言しているのだ。」と答えた。

右職場集会終了後、辻委員長が被控訴人蝦名に対し、再度、組合員として発言しているのかを問いただすと、被控訴人蝦名は、そうとってもらって結構である旨返答した。

以上の事実を認めることができるところ、(人証略)、控訴人タクシー労組代表者辻本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に徴し採用し難い。

控訴人らは、本件各職場集会には控訴人タクシー労組の非組合員は参加し得なかったと主張し、(証拠略)には右主張をうかがわせる記載があり、(人証略)及び控訴人タクシー労組代表者辻は右主張に沿う供述をする。

しかし、(人証略)の証言によると、(証拠略)は、同証人が本件訴訟の提起後の平成四年一〇月一五日に本件訴訟の資料とするために作成したものであって、その記載内容も組合員のみ出席したことが記されているにすぎず、非組合員の出欠欄もあることからすると、(証拠略)の記載から直ちに本件各職場集会が非組合員の参加し得ないものであったと認めることはできない。また、本件各職場集会は、右認定のとおり、春闘妥結結果の組合員に対する報告を内容とするものに過ぎず、特に非組合員の参加を妨ぐべき性質のものとは認めがたいし、右集会の際、入口で栗田副委員長が非組合員のチェックをしたが実際に入室を止められた者はいなかったこと(控訴人タクシー労組代表者辻の供述)及び右認定の事実に徴すると、右各供述は採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、本件各職場集会は、控訴人タクシー労組組合員に限らず、非組合員の出席も許容されていたものであるところ、被控訴人蝦名が春闘妥結報告に関し右認定のような発言をするとともに、辻委員長が被控訴人蝦名に対し、組合員として発言しているのかどうかを問いただすと、被控訴人蝦名は、「タクシー労組が勝手に自分の組合費を徴収しているので、自分も勝手に発言しているのだ。」と答え、また、右職場集会終了後、辻委員長が同被控訴人に対し、再度、組合員として発言しているのかを問いただすと、同被控訴人は、そうとってもらって結構である旨返答したことを認めることはできるが、前記認定の被控訴人蝦名と控訴人タクシー労組との関係を考慮すれば、被控訴人蝦名が右集会においての右のような発言をしたことをもって、控訴人タクシー労組の団結を乱し、また、自己が控訴人タクシー労組の組合員であることを認めたとまで認めることは到底できない。

また、本件全証拠を精査するも、抗弁1(二)の事実を認めるに足りる証拠はない。ほかに、抗弁1の事実を認めるに足りる証拠はない。

よって、抗弁1は認めることができない。

2  抗弁2について

本件全証拠を精査するも、トモエ自動車及びトモエタクシーと控訴人らとの間において、ユニオンショップ協約が締結されたことを認めるに足りる証拠はなく、当事者間に争いのない請求原因1の事実に原審における被控訴人蝦名本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、抗弁2の第一、二段の事実を認めることはできるが、右事実によるも、控訴人らが実質的にユニオンショップであって、被控訴人らに対しユニオンショップ協約が締結されたと同様の効果を及ぼすとまで認めることはできない。

よって、抗弁2は失当である。

四  そうすると、控訴人らが、トモエタクシー及びトモエ自動車が被控訴人らからチェックオフした組合費を受領することを容認すべき法律上の原因はないから、右受領金員を被控訴人らにそれぞれ返還すべき法律上の義務がある。

五  以上の次第で、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由があり、これを認容した原判決は相当であって、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 黒津英明 裁判官 太田敬司)

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